「北海道新聞」(5/11)

一九四二年、飢えた中国農民を救ったのは、日本軍だった−

 日中戦争さなかの一九四二年、中国・河南省の飢えた農民に食糧を与え
たのは日本軍だった−。この秘話を描いた中国の作家、劉震雲(47)の歴史
小説「温故一九四二」が邦訳され、中国書店(福岡)から四月に出版された。
数多くの文学賞を受けた人気作家が、中国で「絶対的な悪」とされる日本
軍に救われた農民の姿に光を当てたことは異例。批判を含む論議を呼んだ
が、劉さんは「文学は、政治より庶民の立場に立ちたい」と訴えている。
                         (北京・佐々木学)

 小説は、一九四二年夏から四三年春にかけて、河南省を日照りとイナゴ
の大群が襲い、三百万人が餓死、三千万人が飢えに苦しんだ史実を基に描
いた。
 蒋介石総統が率いる当時の国民党政府は抗日戦争に手を焼き、被災者の
救援まで手が回らない。それどころか、国民党軍は農民から厳しく食糧を
取り立てた。
 被災者に食糧を与えたのは、敵の日本軍だった。これとて中国の農民か
ら奪ったもので美談ではないが、恩義に感じた農民は国民党軍に歯向かっ
た。
 劉さんは河南省出身。故郷の災害史を調査中にこの史実を知って驚き、
九三年に発表。農民が日本軍に助けられた事実やその小説化に批判が起き
た。しかし、「飢餓難民にとって食べることが戦争より大事だった。蒋介
石は人間が一番大事ということを忘れたことに間違いがあった」と反論す
る。
 小説の中で「われわれはみな、売国奴の子孫なのだ。あなたたちはどう
やって追及するのだ?」と読者に問いかけ、中国で常識化した「侵略者の
日本軍と戦った中国人民」という歴史観とは異なる視点を投げかける。
 飢餓と戦争に苦しむ当時の農民の姿は、成長に取り残された現代中国の
農民とも重なり合う。
 「北京の建設現場は出稼ぎで働く河南省の農民が多い。食事も劣悪で、
給料も少ない。中国が発展したのは農民から搾取したから。農民の姿は中
国の本質です」
 邦訳版は劉燕子さん訳、千六百円(税別)。馮小剛監督の下で映画化の計
画も進んでいる。