『現代中国の民族政策と民族問題-』、日本経済新聞読書面で書評! [ 2016/04/30 ]
『現代中国の民族政策と民族問題-辺境としての内モンゴル-』
リンチン著
内モンゴル「先住民」の苦難
ウイグル人が多く住む中国の新疆ウイグル自治区では最近、有力紙の元編集長が共産党から除名された。民族問題について「中央」の路線とは異なる言論活動をしたため、という理由だ。似たようなことは半世紀以上前の内モンゴル自治区でも起きていた。そう本書は伝えている。
中国の民族問題と聞けばチベット人やウイグル人を思い浮かべる人が多いだろう。ただ、内モンゴルの「先住民」であるモンゴル人たちへの経験こそ、共産党政権の民族政策を考えるうえでは重要だ。早くに共産党の支配下に入ったこともあって、いわば試金石となってきたからだ。
本書は主に50年代から60年代に焦点をあてて、モンゴル人たちの苦難を描いた歴史書だ。たとえば経済の面で、モンゴル人の伝統的な生業である牧畜業が「おくれたもの」とされ、その基盤である牧草地がやみくもに農地に転用され、やがては砂漠化していった事実を、多くの史料で浮き彫りにする。
少数民族の苦難に光りをあてた歴史書が中国で日の目を見るのは難しい。内モンゴル出身のモンゴル人である著者が日本語で本書を公刊した意味は大きい。本書があぶり出す内モンゴルの実情は、チベット人やウイグル人が置かれている現状を理解するのにも役に立つはずだ。(集広舎・5500円)
日本経済新聞 2016年(平成28年)1月3日(日曜日)読書面
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