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張宏傑著『中国国民性の歴史的変遷』(小林一美ほか訳,集広舍)の週刊ダイヤモンドで書評が出ました。!   [ 2016/05/24 ]

真剣な中国での国民性論
中華帝国復興の幻想を国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえる

『中国国民性の歴史的変遷』書評

 国民性論とか民族性論というのはしばしば大きな話題となる。戦後の日本でもルイス・べネディクトの『菊と刀』、イザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人』、中根千枝の『タテ社会の人間関係』などが注目を集めた。だが近代中国における国民性論ほど、議論のタネとしてではなく、真剣かつ深刻な議論、場合によっては政治問題とさえなってきたものはないだろう。19世紀半ば以降の中華世界の凋落(ちょうらく)の原因を劣悪な国民性に探るのが近代の中国思想界の大きな潮流となって今も続いている。
 その最新の一冊である張宏傑著『中国国民性演変歴程』(2013年、湖南人民出版社)がこのほど邦訳本『中国国民性の歴史的変遷』(小林一美ほか訳、16年3月、集広舍)として出版された。同書の特徴は国民性を不変のものとしてではなく、時代によって変化してきたことを指摘していることである。訳者の要約によれば、中国の国民性は、始皇帝以前は開放的で、文武両道を備えていた。始皇帝の登場で皇帝独裁が始まったが、唐代までは貴族精神があった。宋代以降となって北方民族の侵攻もあり、国民は名利、利得の獲得に狂奔し無頼漢が横行するようになったという。
 確かに清末の「中体西洋論」(中華を本質とし、西洋文明を手段とする)が挫折して以降、中国知識人の多くは「劣化した」国民性をいかにただすかを課題とし、さまざまな方策を打ち出してきた。清末の梁啓超(りょうけいちょう)に始まり、孫文、蒋介石、毛沢東らすべて中国の改革を目指す人々は「国民性」の改良に大きな努力を払ってきた。その中で最も深刻なのは文学者の魯迅が『阿Q正伝』で示した中国人の「奴(隷)性」であり、壮大な悲劇に終わった毛沢東の文化大革命もその原点は幻想的ユートピア社会であった。
 私は、国民性の問題は、本書のようにその時代的変化を追及するにしても、なにか儒教的修身論の延長のように思われるし、国民性とか民族性といっても中国に時代を超えて国民とか民族が存在したのかといる疑問がある。ただ当面の中華帝国復興の幻想が国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえられているところが、まことに「中国的」だと思われれてくる。(辻 康吾・元獨協大学教授)「週刊エコノミスト 2016・05・30
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