書名日韓古代彫刻史論
ご寄稿者名田邉三郎助
投稿日 6/14 日
編著者大西修也
出版社中国書店
出版年月2002年2月
ISBN 4-924779-64-4

書評諸論文をテーマ別に分けて再構成

 着実な実証的態度と研究対象への集中力に敬意
              田邉三郎助
  
  本書の著者は、その「あとがき」にあるように、ま
ず早稲大学で東洋美術史の基本を小杉一雄氏に学び、
その紹介で韓国・東国大学に留学、韓国仏教彫刻史の
権威として知られた黄寿永氏について同国の彫刻史に
本格的に取り組んだ研究者で、第二次大戦後のこの分
野での第一人者といえるであろう。なお在韓中には、
韓国宗教史・宗教思想史を趙明基・安敬賢両氏に学び、
その後も同学の鄭永鎬氏等とともに各地で発掘や調査
に従事、それらの経験が本書の各書に生かされている。
  本書の構成は「研究序説」としての第一部に始まる
七部からなる。第一部は三国美術の展開と仏教彫刻、
日韓古代彫刻史研究の現況と課題の二章に分けて本書
の内容を要約するもので、その点通常の概説や現状分
析とは異り、著者の研究対象の範囲や関心の度合いが
明確に示されている。第二部以下は、著者がこれまで
に発表してきた諸論文をテーマ別に分け、内容もそれ
に即して再構成してまとめたもので、すべて現時点で
の著者の論述と考えてよいであろう。
  第二部は「朝鮮三国期の初期仏教と仏教図像の研究」
の名の下に、まず中国、五胡十六国時代から南北朝初
期に多い釈迦如来を「釋迦文佛」と記録する事、それ
が高句麗壁画古墳の一、徳興黒壁画墳にみられる事を
挙げ、その表現の典拠を『弥勒来時経』に求め、さら
に「請観世音懺法」によってこの時期から隋代にかけ
ての釈迦、弥勒、阿弥陀、観音の信仰形態を論じた部
分は興味深い。ついでいわゆる五胡式仏像について考
察するが、ここで扶余・新里出土の小銅像と佐護の中
国・興安在銘銅像との形態的比較を基に、両者の関連
を説いているが、釈迦文表現の時間的・空間的拡がり
をどう捉えるかの問題とともに、さらに考究すべき点
があるように思う。
  第三部「朝鮮三国期の造像研究(各論編)」での一
光尊仏像と菩薩半跏思惟像、宝珠奉持形菩薩像の問題
は、いずれも現在の研究の中心にこの著者があるもの
で、第一の扶余・佳塔里出土銅造トルソと善光寺式三
尊の原像と見做される東京国立博物館三尊像との関係
から、これらが百済仏像様式の一典型であることの推
論、第二の対馬・浄林寺の銅造半跏像の下半身と長野・
 観松院像との類似、さらには新出の中国山東省・青州
出土の石像から、百済の半跏像の実体を抽出する結論、
宝珠捧持菩薩像の、前記「請観世音懺法」による解釈
など、注目すべきものがある。
  第四部「朝鮮三国期の造像研究(様式編)」は石仏
における百済と新羅各様式を考究するもので、いずれ
の場合も第五部「日韓古代彫刻の服制研究」でとりあ
げている作品と関係する。ここで主たる問題は、如来
像の服制であるが、頻出する偏衫と称する部分の解釈
と、大衣等の末端処理の形式の問題が錯綜しており、
従来からあった議論の基にある実例の整理にいまだし
の感があるのは惜しい。
  第六部「日韓古代彫刻の造像銘研究」と第七部「止
利式仏像の研究」は、前者における年号と干支表記に
高句麗と百済の相違を考える説、後者の法隆寺金堂の
銅像薬師如来像の銘文と製作年代を分けて考えるとこ
ろなどに魅力を感じる。
  総体に著者の着実な実証的態度と、研究対象への集
中力には敬意を表したい。今後は、本書に触れていな
い重要な作品や、中世以降の問題についての考究と、
それからの広い視野に立つ韓国彫刻通史を望むもので
ある。
 (たなべ・さぶろうすけ氏=武蔵野美術大学名誉教授、
町田市立美術博物館館長、東洋美術史・彫刻史専攻)
   ★おおにし・しゅうや氏は九州芸術工科大学教授・
東洋美術史学専攻。早大大学院修了。著書および訳書
に「韓国・端正なる美」「法隆寺」「アジアの仏像」
「法隆寺から薬師寺へ」など。一九四ニ(昭和17)年生。

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