書名九億農民の福祉
副題現代中国の差別と貧困
ご寄稿者名徳澄雅彦
投稿日 10/30 日
編著者王文亮
出版社中国書店
出版年月2004年11月10日
ISBN4-924779-82-2

書評
  中国沿海部におけるすさまじいまでの経済発展と、それ
に対する内陸部の著しい立ち遅れは、あらゆるメディアで
喧伝され論考されている。しかし本書のように、農村の側
面に立ち、ここまで詳細かつ広汎潤沢な資料・統計を駆使
して問題点を剔出したレポートは見当たらない。
  筆者は中山大学・中国社会科学院を経て1989年来日し、
大阪市立大学で文学博士号を取得、現在九州看護福祉大
学で教鞭を取る少壮学者。福祉関係について、日本との全
般的比較考察を含め適役の論客と言えよう。いわゆる三農
(農業・農村・農民)問題を論ずる筆者の姿勢は、江西省
広豊県の農村に出自を持つだけに、決して中央政府の公式
見解をなぞることなく、果敢に既存の政策・制度を逐一槍
玉に挙げ、九億農民が希求する真実の人民共和国中国の在
り方を指向してみせる。
全文約590ページにおよぶ労作だが、@都市と農村の二重
構造 A農村地域の家族養老 B農村社会保障制度 の三章に
分けて現状をつぶさに分析してあるので、論旨の展開は明
快。それによると、三農と都市との巨大な断層は、政策的
意図から生じた人権軽視の悪評高い二重戸籍制度にはじま
ると指摘する。農村に戸籍を固定され、都市への移動も職
業の選択も厳しく制限された現行戸籍制度は、税金・各種
負担金・計画出産・高齢者扶養・医療保障制度・年金問題
等々‥すべての面で都市との差別が存在しており、それが
貧困、生活格差に結び付いていると説く。同時に、これま
での中央為政者と地方行政権力の怠慢、ひいては目に余る
腐敗ぶりを衝き、「三農」のために今後中国がいかなる制
度的手術を施すべきかを提言している。
 なお、巻末の現代中国福祉関連年表は、専門研究者のみな
らず、一般読者にとっても資料整理のための便利な指針と
なるだろう。
(日本日中関係学会会員)

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